脳神経外科のプロが語るリラックスの神髄

ストレスに対し強くしなやかな“自我”をつくる人間脳を鍛える

都立駒込病院 脳神経外科 部長
篠浦伸禎先生

1992年東京大学医学部の医学博士を取得。国立国際医療センターなどで脳外科手術を行う。2009年より現職。脳の覚醒下手術ではトップクラスの実績を誇る。著書に『脳にいい5つの習慣』(マキノ出版)ほか多数。http://www.cick.jp

リラックスした脳の状態とは、“自我”がしっかり働いていることだと思います。脳科学の進歩によって、自我は脳の真ん中、動物脳と人間脳との境目の帯状回を中心とした場所にあることが分かってきました。自我は脳の司令塔。脳の神経線維が集中し、問題があると、頭がボーっとしたり、記憶力が落ちてアルツハイマーの原因になります。僕は、リラックスとは完全に緊張感がないことではなく、どんなストレスがあっても、脳の適切な部位が働いている状態だと思うのです。人間脳が動物脳をコントロールできているから、危機的状況でもリラックスできる。

ストレスを感じると脳は反射的に血管を収縮させ、血流を落とすので、毛細血管の必要なところに血液が届かず、それが続くと脳が痛みます。けれども、人間はストレスに強いからこそ最も進化したのです。暑くても寒くても、どこでも住んでいますよね。知恵を出し、集落をつくるなど、動物よりも脳を使って乗り越えてきたわけですよ。ところがストレスがないとDNAは眠ったままです。人間の能力を上げるためにも、適度なストレスは凄く大事。それをホルミシス効果と呼びます。放射線の研究でも、少ない放射線量にあてると、次はさらに強い放射線でも大丈夫だと分かっています。動物脳をコントロールし、小さなストレスを乗り越えて自信がつけば、大きなストレスにも耐えられるようになるのです。

脳をリセットするには生活にリズムをつくると良いでしょう。働く時は働いて休む時は休む。また、普段使っている脳とは別の脳を使うことをする。僕は左脳的な人間だから、意識的に人と接触して、人間関係を築いたり空手をしたり。ホルミシス効果で、そこに緊張感があると良い。

また、利他的価値観を持つこと。自分の利益だけを考えている時よりも、周りのことも考えている方が脳は活性します。人間脳を使うことで、脳も人としても成長し、強くしなやかな自我をつくることができるのです。

リラックスを司る脳のしくみ大解剖


右脳=右半球
感性の脳。想像力、注意力など。人間関係に影響を受けやすく、周囲の人と調和し、現実に注意を集中させ対応する機能がある。

左脳=左半球
論理の脳。言語能力、論理的な思考、理数系の能力など。言語を使って過去を定着し、合理的に考え、進歩するための機能がある。

 

大脳(大脳新皮質+大脳辺縁系)の構造

人間の脳全体の80%を占める。言語、感情、記憶、感覚を司る脳の中枢

〔大脳新皮質=人間脳論理や意識された行動など高次の働きを司る、最も進化した脳。理性や見識で欲望を抑え、動物脳をコントロールする。
〔大脳辺縁系=動物脳大脳新皮質の内側にあり、情動や食欲、性欲など本能を司る脳。生命を存続させるための機能が集まった脳。
[ 小脳 ]手足の動きや筋肉など、身体の知覚と運動機能を司る。
[ 脳幹 ]血圧、呼吸、体温調整など、生命維持活動の基本を司る。
●間脳
[ 視床 ]嗅覚以外の感覚情報を処理して、大脳新皮質に伝える。
[ 視床下部 ]交感神経と副交感神経を切り替える自律神経系を司る。
[ 下垂体 ]視床下部の指令を受け、ホルモンの分泌を調整する。

大脳辺縁系(動物脳)の構造

動物脳の適度かつ適切な働きをコントロールすることで脳の病の予防になる
〔帯状回 〕大脳辺縁系と大脳新皮質の境目にある「自我」の中心にあたる。
〔海馬 〕短期間の記憶を司り、過度なストレスで萎縮、機能が低下する。
〔側坐核〕扁桃核の前に位置し、快楽と報酬の神経回路に深く関わる部位。
〔扁桃核〕不安や恐怖の神経回路に関わる部位。ノルアドレナリンを分泌。

大脳新皮質(人間脳)の構造

脳の最も外側にあり、感覚や知覚の中枢として、創造力や理性など人間ならではの複雑で高度な思考や行動を可能にする

〔前頭葉〕運動野や言語領などがあり、判断、決定の働きに関わる。
〔頭頂葉〕皮膚感覚などの触覚に関わる部位。
〔後頭葉〕見たものを認識するなど視覚に関わる。
〔側頭葉〕聞いた音を認識するなど、聴覚に関わる。
〔前頭前野〕前頭葉のなかでも前のほうに位置し、人間らしさを形成する。

前頭前野3つの働き

共感脳
人間らしさをもたらす前頭前野のなかでも真ん中に位置し、セロトニン神経によって活性され、「共感」の能力をつくり出す。

学習脳
共感脳の外側に位置し、報酬を前提にしていろいろな努力をし、学習する脳。ドーパミン神経によって活性される。

仕事脳
共感脳の外側上方にある。ワーキングメモリーとも呼ばれ、一瞬で情報を分析し行動する。ノルアドレナリン神経に関係する。

(出典:セロトニンDojo代表 有田秀穂先生)

(TRINITY47号より)